去年の話。
知人が死んだ。
確かに死んだ。
ダメな僕をとても可愛がってくれた。
第2のお父さんのような存在だった。
コーヒーが苦手なのに笑顔でお湯で薄めながら僕の悩みを静かに聞いてくれた。
「心配しなくて大丈夫だよ。俺が何とかすっから!」
片方の耳が悪く聞き取れないのか何度も大きな声で言わないと話が通じなかった。
でも心ではいつも通じていた。
一ヶ月、いや二ヶ月に一度ぐらい「お茶を飲みにいこう」いつも誘ってくれた。
活動的で花と動物が好きな人。
山登りに夢中で自然をとても愛していた。
猿みたいな怖い顔の瞳の裏にはいつも潤いと輝きがあった。
でもその日は少し僕には違うように見えた。
いつも見える極彩色から魂が抜け落ち、淡い透明感を感じていた。
そして優しく感じていた。
一時間ほど一緒に一杯のコーヒーを飲んだ。
いつもお気に入りの流行の喫茶店の生ぬるい風があたるテラスの席。
「また、一緒にコーヒーを飲もうな!いつでも電話しておいでよ!」
彼の声を聞いたのはそれが最後だった。
この作品は、亡き第二の父みたいな存在のある70代の会社社長の話です。
最後にコーヒーを飲みに行く時、いつもと違う違和感を感じていました。
山が好きな彼は登山に使うピック(アルミ製の杖みたいなもの)を使いたくて、大好きな山、自然を感じたくて一人山に入っていきました。
数週間が経ったとき、変な胸騒ぎを感じました。
いつもの携帯電話番号に朝一で電話をかけました。
娘さんが出られました。
「父は先月亡くなりました」いつか聞きました。
山から滑落して亡くなったという。
それは私とコーヒーを飲みに行った日、自宅兼事務所に帰ったであろう3時間後の事でした。
「ああ、父は僕に最期にサヨナラを言いに来てくれたんだな」
そう思い、遺影、遺骨に感謝すべくサヨナラを言いに自宅に行きました。
動かない彼に
「お父さん、今までありがとう」
「大好きなコーヒーを置いていくよ」
ドリップパックのコーヒーをお供えして祈りました。
でも会った3時間後に死なれては少し怖い、悲しい、切ないです。
ゆっくりお休みくださいね。